お見送り

平成28年12月21日 9:00

父を送った

 

充分な準備の上で臨んだとは言い切れない…

準備していても、後悔の念は残るのだろうな

 

朝は、火に入る父を思って家を出る足がすくんだ

体全体が細かく震えて心が萎えそうになった

脱力したような、何をしても前に進めないような、寄る辺ない心地

 

焼くのではない

送り出すのだ

楽にしてあげるのだ

解放してあげるのだ

声に出して自分に聞かせて

やっと部屋を出た

 

抜けるような青空

穏やかな風

先ほどの地面が消えて行くような不安定な気持ちが嘘のように、気持ち良い外の空気

 

生きている側は生きて行くしかない

逝った者は逝かせてやるしかない

そしてたぶんもう

あの肉体には

あの肉体の近くにはいない

 

動かなかった足

褥瘡が消えなかった足

腱鞘炎をこじらせてしまって、字も書けず自分の爪も切れなくなった右手

曲がってしまった背中

呼吸が苦しくて、歩くことも喋り続けることも食べることもしにくくしていた肺気腫

 

そういったものを抱えた

障害認定3度の

あの肉体から離れて

さぞ軽やかに飛び回っているであろう父の魂を思うと

自然に顔が前を向いて

頬に当たる風を感じて

おとうさん

会いに行くよ

見送りに行くよ

 

と、話しかけていた

 

現地で慌ただしくならないように

落ち着いて父と対面できるように

でも安全に着けるように

 

守って

 

と話しかけながら

母を迎えに向かった