記憶の断片
眠ろうとすると、外の車の往来の音の合間に、向かいのコンビニエンスストアの駐車場からであろうか、人の話し声が途切れ途切れに聞こえてくる
何を言っているのかはわからない
ただ、有機質な音が微妙な、時に極端な高低を伴って聞こえてくるだけ
子供の頃は
実家に住んでいた頃は
夜になると階下からよく声が聞こえてきていたものだった
母が父をなじる声
時々、ほんの時々、父の声が聞こえたがそこに被さるように母の激しいトーンの声が聞こえる
耳を塞いでも伝わってくる階下の諍い
早く静まれと念じながら眠りに落ちたことが多々あった
たまに静かな夜があると、心底ホッとしたものだった
生きにくかったろう
それでも離婚にならなかった理由は今となってはわからない
ただ、異様に磨り減った歯と、開口量の少なさが父の精神性を表しているように思えた
積年の、事象の受け止め方が表れているようで
積年の、事象の受け流し方が表れているようで
診ていて切なく…
父を父たらしめるために、父を支えてきたものたちであると思うと
労わるように触れてゆくことしか出来なかった
もっと回数を診るべきだった
私は父に歯科医師にしてもらったのに
やはり父の頑丈さに甘えていたんだなぁ
とうさん